レギュラス・ブラックの死に対する認識について

前置き

レギュラス・ブラックは、1979年頃にヴォルデモートのホークラックスであるスリザリンのロケットを奪取するために死亡した。これは秘密裏に行われ、レギュラスの遺体も洞窟の湖に消えたため、「ハリー・ポッターと死の秘宝」において唯一真実を知るクリーチャーの口から語られるまでこれが明らかになることはなかった。そのためそれ以外の人物はこの事実とは異なった認識を持っていた。

例えば、シリウス・ブラックやリーマス・ルーピンは、レギュラスがデス・イーターから抜けようとして制裁された、と認識していた。ダンブルドアも、遺体が確認されていないにも関わらず、単純に行方不明ではなく、レギュラスは死亡したものと認識していた。

一方、リトル・ハングルトン墓地におけるヴォルデモートの発言では、レギュラスは特に裏切り者として糾弾されることはなかった。そのため、ヴォルデモートやデス・イーターのメンバーはレギュラスの離反を知らず、また、騎士団や魔法省側の認識と異なり、逃亡したとも考えていなかったことがわかる。

この認識の食い違いはどこから生じたのか、ここではレギュラスに関する情報をまとめ考察する。

デス・イーターへの加入・活動について

まず魔法省や騎士団側の人間は、レギュラスがデス・イーターであることについてどのような認識をもっていたのだろうか。レギュラスはクリーチャーの発言から正式なデス・イーターのメンバーとして、1977-1978年頃に加入したことがわかっている。

騎士団側の認識

以下の記事中で引用するリーマス・ルーピンの台詞から、少なくとも不死鳥の騎士団側 (あるいはシリウス・ブラックやルーピンの周囲) の人物からデス・イーターであると認識されていたことがわかる。

シリウスが言った。「バカな奴だ……『死喰い人』に加わったんだ。」

Rowling, J.K.. – Harry Potter and the Order of the Phoenix

もっとも、デス・イーターに加わったことを知ったタイミングが、レギュラスの存命中なのか行方不明後なのかは不明である。

シリウスは1975年11月3日以降 (16歳、5年生時) に家出をしており、それ以降家族に直接会った描写は無い。それ以降のブラック家の様子の描写はほぼ伝聞や推測である。一方レギュラスがデス・イーターに加わったことは断定的な口調で語っている。レギュラスが加入したのは16歳 (おそらく1977-1978年) のことであり、この時点でシリウスは6-7年生であるため、ホグワーツで接触する機会はまだあったと思われる。だが、スリザリンは他の寮とは決裂しているためあまり可能性は高くないだろう。

他には、騎士団に転向したスネイプから情報がもたらされた可能性もある。

もっとも、少なくともレギュラス行方不明~ヴォルデモート失墜の間には既に知っていた可能性が高い。これは、シリウスがクラウチJrなどについて語るとき「アズカバンを出た後知ったことだが」と断っているのに対して、レギュラスについては「レギュラスが死んだあとわかったことだが」と断っているためである。

魔法省側の認識

レギュラスはデス・イーターである、と魔法省が認識するためには、捕らえたデス・イーターの証言、騎士団の情報提供、独自情報網の3つのいずれかから情報を手に入れる必要がある。

まずヴォルデモート失墜後の裁判では、ルシウス・マルフォイやレストレンジ夫妻をはじめとして、多くのデス・イーターのメンバーを無罪としたり、逆にシリウス・ブラックをデス・イーター側の人間と考えたりしたことなどから、デス・イーターのメンバーや活動の実態をしっかりと把握できているわけではなかったことが示されている。

また、レギュラスに関する情報を持っていると考えられる騎士団は、共にヴォルデモートに対抗する関係であったが、連携がうまくいっているわけではなかった (Pottermore,ミネルヴァ・マクゴナガルの項参照)。しかし、魔法省から騎士団へ情報を出し渋ることはあっても、第二次魔法戦争次と異なりヴォルデモートにはっきりと対抗している第一次魔法戦争時の魔法省に対して騎士団が、誰がデス・イーターのメンバーなのかという重要な情報を出し惜しむことはないと考えられる。

他には、マクゴナガルなどのようにデス・イーターの偵察に従事する職員がいたため、そこで情報を手に入れられる可能性はある。

デス・イーター側の認識

迎え入れる側なので、レギュラスがデス・イーターであることは認識しているだろう。ただし、第一次魔法戦争の時期では、デス・イーターといえども他のメンバーを全て知っているわけではないため(例:カルカロフ)、何人かのメンバーとヴォルデモート自身に限られるだろう。

デス・イーター内では、レギュラスはそれなりにヴォルデモートに接近できていたようである。例えば、ホークラックスについての仄めかしを直接耳にしている(レギュラス・ブラックはどうやってヴォルデモートのホークラックスに気が付いたのか)ほか、ハウスエルフを必要としているということを聞きつけ派遣するなどしている。加えて、洞窟に残した手紙の署名R. B. A.を見れば、ヴォルデモートが自分のことだと気付くと考えていた可能性もある。

また、レギュラスは純血の中でも特に地位が高いと見做されている家の出身であり、シリウスが勘当されてからは事実上ブラック家の跡取りなので、ヴォルデモートから関心を向けられていても不思議ではない。

行方不明になったことについて

騎士団側の認識

上述したように、少なくともヴォルデモート失墜前までにはシリウスやルーピンは、レギュラスが”逃亡し、数日のうちに制裁を受けた”と認識していたと考えられる。

「いいや、レギュラスはヴォルデモートに殺された。ヴォルデモートの命令で殺された可能性の方が高いかもしれない。レギュラスはヴォルデモート自身が手を下すほど重要ではないだろうからな。死んでから知ったことだが、レギュラスはある程度まで入り込んだ後、自分が命じられている内容に恐れをなし手を引こうとした。もっともヴォルデモートが相手だ、辞表を出してそれで事が済むわけがない。仕えるなら一生、さもなければ死だ。」

“No, he was murdered by Voldemort. Or on Voldemort’s orders, more likely; I doubt Regulus was ever important enough to be killed by Voldemort in person. From what I found out after he died, he got in so far, then panicked about what he was being asked to do and tried to back out. Well, you don’t just hand in your resignation to Voldemort. It’s a lifetime of service or death.”

Rowling, J. K.. – Harry Potter and the Order of the Phoenix

「シリウスの弟のレギュラスは、私が覚えているかぎりでは数日しかもたなかった。」

“Sirius’s brother Regulus only managed a few days as far as I can remember.”

Rowling, J. K.. – Harry Potter and the Half-Blood Prince

レギュラスがロケットを奪取したことは6巻の時点でプロットに組み込まれている。同じ6巻でルーピンがこのように発言しているため、プロット変更による情報の矛盾の可能性を考える必要はないと思われる。

さて、まず誰も真実を知らないという前提がある。そのため、「レギュラスが逃亡し制裁された」という情報、そして「それが数日のうちに起きた」と考える噂や根拠が必要である。

レギュラスが逃亡し制裁されたという情報

騎士団の人間が、この情報のソースとなった可能性は低い。

レギュラスは、少なくとも1979年8月末までは確実に学生の身分である。そのためホークラックス奪取は休暇中に行ったと推測されるが、そうなると、休暇が明けてもホグワーツに出席しなかったことになるため、遅くともこの時点でレギュラスが行方不明になったことが明らかになる。

シリウスその他のメンバーは1978年8月末に卒業していることから学校でその話を聞くことはできないものの、校長職にあるダンブルドアがその情報を手に入れるだろう。デス・イーターのメンバーから直接情報を得られるのはスネイプが騎士団に転向する1980年の冬になってからである。

もっとも、騎士団はレギュラスの行動や遺体を確認できていない。少なくとも騎士団メンバーや魔法省の職員など自陣営が彼を殺害または拘束したのかどうかは自分達で確認できる。自分達の誰もレギュラスに手を出していないのなら、単純に逃亡したか、デス・イーター内で殺害されたかと考えるだろう。この時点では行方不明になったことが分かっただけで制裁されたという説を積極的に推す根拠はない。

数日のうちに殺されたという情報

レギュラスがいつ逃亡し、いつ殺されたかを知っていなければこの情報は得られない。騎士団がこの情報の出所になった可能性は低い。

魔法省の認識

レギュラスが逃亡し制裁されたという情報

魔法省も遅くともホグワーツにレギュラスが出席しなかったことによって、彼が行方不明になったことを知っただろう。しかし、騎士団と同様に、彼がなぜ行方不明になったのかを知ることはできず、推測するしかなかったと思われる。

魔法省はデス・イーターと疑われるメンバーやその協力者を尋問する機会を得られるため、上述したように、そこで何らかの証言を得てレギュラスが逃亡し殺されたと考えるようになったのかもしれない。

しかし、自分がヴォルデモートの命令でレギュラスを始末しましたなどと、自分の罪を増やすような虚偽の証言をするものはいないだろう。取り調べなどで行方不明者の消息を探ろうとするだろうが、デス・イーターから聴収しても、ヴォルデモートの秘密主義によって断片的な情報しか得られない。取り調べた者たちが知らないからといって、実際に起きてないとは言えないところが判断を難しくしている。1981年頃に行方不明になった騎士団員のキャラドック・ディアボーンのように、結局消息が原作終了時点でも判明しなかった人物もいる。

魔法省が (騎士団も) レギュラスに何もしていなかったのだから、デス・イーター側から得られた断片的な情報をもとに、逃亡して殺された、と推測するのが限界だと思われる。

数日のうちに殺されたという情報

レギュラスがいつ逃亡し、いつ殺されたかを知っていなければこの情報は得られない。騎士団と同様、魔法省がこの情報の出所になった可能性は低い。

デス・イーター側の認識

レギュラスが逃亡し制裁されたという情報

ヴォルデモートは、洞窟にレギュラスが残した手紙を確認していないため (もし確認していたら自分の失態の証拠になる手紙をそのままにしないだろう)、レギュラスの離反を知らない。加えて、1980年に死亡したウィルクスやエヴァン・ロジエールについて1995年時点でリトル・ハングルトン墓地で言及しており、正式なデス・イーターのメンバーであり1979年に死亡したレギュラスについてのみ言及しないのは不自然であるため、死んだ3人のデス・イーターの1人として数えているのだろう。従って、ヴォルデモートはレギュラスが裏切ったり逃亡したりせず、忠実なままだったと認識していると言える。

デス・イーター側がレギュラスの行方不明を把握したタイミングは、遅くともレギュラスがホグワーツへ出席しなかったとき、あるいはデス・イーターの召集時であると思われる。リトル・ハングルトン墓地での描写から分かるように、召集時にデス・イーターは円陣の特定の位置に立つようになっているからである。

彼のことを知るデス・イーターやヴォルデモートからみれば、ずっと純血主義に賛同し、ヴォルデモートのファンだった学生が何の音沙汰もなしに行方不明になった場合、まず敵対勢力に拘束されたか殺害されたかと考えるだろう。ワームテールやオーガスタス・ルックウッドなどから騎士団や魔法省の情報を仕入れることはできるが、騎士団や魔法省はレギュラスに関して何もしていないのだから情報は得られないだろう。ワームテールはヴォルデモート失墜後も情報を手に入れることができたが、それでもレギュラスに関して魔法省や騎士団が関わっているという情報はなかっただろう。

もちろん逃亡したと考え追跡しようと試みるかもしれないが、レギュラスは家族にも何の反応も残していないため、逃亡の手助けをする可能性が高いと考えられる家族や親戚に対して開心術や真実薬を用いた調査を行ってもこれといった証拠は得られず、魔法省や騎士団のない痛者から得た情報でも彼を保護したというものはない。それに逃亡したとすればヴォルデモート消滅後に戻ってこないのはおかしい (ルシウスなどデス・イーター側の人間ですら多くの者がヴォルデモートが完全に消滅したと考えた)。消滅後の情報はワームテールが集めていたため、レギュラスが戻ってきていないことはヴォルデモートも知っているはずである。そのためヴォルデモートがレギュラスを糾弾しないということは、レギュラスが裏切ったり逃亡したりしたと考えていないことを示している。

以上のことからヴォルデモートやデス・イーターは、レギュラスは裏切っておらず、魔法省や騎士団によって秘密裏に始末された、と考えている可能性が高い。

数日のうちに殺されたという情報

騎士団や魔法省がこの情報の出所となる場合、レギュラスの行動や遺体、下手人などを把握していなければならない。そうでない以上、レギュラスが数日で追跡され制裁されたという情報の出所はデス・イーター側の可能性が高い。それに至る過程には様々な可能性が考えられる。

可能性1

レギュラスが行方不明になったが、その詳細をデス・イーター側が把握していないと知られるのはまずいということで、裏切り者を始末したということにした、という可能性が考えられる。しかしこの場合、ヴォルデモートはレギュラスが裏切ったとは認識していないにもかかわらず、彼を殺害した、あるいはそうだという推測を行うに足る情報を流したことになる。さらにデス・イーター達にとっては、レギュラスの蒸発に魔法省や騎士団員が関わっていないとは確信できないということが問題になる。もし彼らがレギュラスを拘束・殺害していた場合、デス・イーターがレギュラスを裏切り者として処分したと宣伝するのは、自分たちは事態を把握できていないということをわざわざ白状しているようなものである。そのため、この可能性は低い。

可能性2

ヴォルデモートの秘密主義が、デス・イーターとその協力者の勘違いを招き、レギュラスが裏切り者として殺害されたという説が形成された可能性がある。この場合は以下の流れのようなことが起こったかもしれない。

  1. ヴォルデモート失墜前または失墜後に拘束された者たちがいる
  2. その中には、罪を逃れようと魔法省の役に立つ証言をしようとする者がいる
  3. 行方不明者の調査の一環で、彼らはレギュラスの消息について尋ねられる
  4. それによって、彼らはレギュラスの蒸発について魔法省側が関わっていないことを知る
  5. そこでこれまで聞いたことのあるヴォルデモートの言葉のうち、逃亡者の殺害を示唆したものを、レギュラスの殺害の指示だったと結び付ける
  6. それはたまたまレギュラスが行方不明になったと考えられる日から数日以内のことだった
  7. そのような指示があったかもしれないと証言する
  8. 他に有力な証拠がないため、魔法省はこれが事実だと認識する

このように、魔法省側でなく、内部の情報を知っているはずのデス・イーターたちも真実を知らないが故の噂に惑わされ、このような説が形成された可能性がある。