フィニート・インカンターテムの効力について

前置き

フィニート・インカンターテム (Finite Incantatem) は、一般的な魔法に対するカウンタースペルとして、魔法教育の初期に学ぶ呪文である。

様々な魔法に対して効果を発揮するようであるが、明確な基準が原文で示されたことはない。そのため、原作小説や映画、あるいはハリー・ポッター・シリーズの二次創作において、なぜこの呪文を試さないのか?という場面に遭遇し、展開に無理を感じるケースが生じてしまう。

ここでは、この呪文が使用されたケースとその成否、また、使用が試みられなかったケースを取り上げる。それによって、この呪文による解呪が有効な魔法、そうでない魔法を推定してみる。

また、ここではフィニート (Finite) をフィニート・インカンターテムと同じものとして扱う。

原作における使用例

  1. スネイプ先生による使用(小説ハリー・ポッターと秘密の部屋)

    フィニート・インカンターテム!」とスネイプが叫ぶと、ハリーの足は踊るのをやめ、マルフォイは笑うのをやめた。

    Rowling, J.K.. Harry Potter and the Chamber of Secrets

  2. ハーマイオニー・グレンジャーによる使用(映画版ハリー・ポッターと秘密の部屋)
  3. リーマス・ルーピンによる使用(小説ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団)

    「タラントアレグラ!」ドロホフは杖をネビルに向けて叫んだ。 (…) ルーピンが静かにそう言うと、杖をネビルの足に向けて唱えた。「フィニート」呪文が解け、ネビルの両足は床に下りて静かになった。

    Rowling, J.K.. Harry Potter and the Order of the Phoenix

  4. ロナルド・ウィーズリーによる試み(小説ハリー・ポッターと死の秘宝)

    「『フィニート インカンターテム』を試してみて」ハーマイオニーが即座に答えた。「呪いとか呪詛で降っているのだったら、それで雨はやむはずよ。」

    Rowling, J.K.. Harry Potter and the Deathly Hallows

  5. ハリー・ポッターによる使用(小説ハリー・ポッターと死の秘宝)

    「ディセンド!」壁がぐらぐら揺れ出して、ロンのいる隣の通路に崩れ落ちかかった。 (…)  不安定になった山から壁の向こう側に大量に落下したガラクタが、床に衝突する音が聞こえた。ハリーは杖を壁に向けて叫んだ。「フィニート!」すると壁は安定した。

    Rowling, J.K.. Harry Potter and the Deathly Hallows

ケース1は決闘クラブのエピソードでの使用であり、このときはその広間の生徒が唱えた魔法はおそらく全てが打ち消された。この時に、広間で唱えられていた魔法は、名称がはっきりしているのはタラントアレグラ (タランタレグラ)、リクタスセンプラである。また、少なくとも学校中の生徒が集まっているという描写がある。

おのおの杖を持ち、興奮した面持ちで、ほとんど学校中の生徒が集まっているようだった。

Rowling, J.K.. Harry Potter and the Chamber of Secrets

もちろん上級生は適切に魔法を使っていたため、このフィニート・インカンターテムで打ち消さずとも既に残っていなかったという可能性はある。解呪のための追加のアクションをとるそぶりを見せなかったのは、少なくともホグワーツで教える魔法にはこれで解呪できないような魔法は教えていないからなのか、小説の表現の都合なのか、応急処置のつもりだったからなのか、いずれであるのかは判断できない。

ケース2では、ハウスエルフのドビーがなんらかの魔法をかけたブラッジャーに対して唱えており、ブラッジャーは爆発し消し飛んだ。

ケース3では、ケース1と同様、タランタレグラを解呪している。

ケース4では、この呪文で止められると言及している呪いや呪詛とは原文だとHexとCurseのことである。呪文の種類は特定されておらず、また、結果的にこの呪文では解決できなかった。魔法省はロンドンの地下にあるが、天候の影響を再現するような魔法が掛けられている。この魔法はフィニートでは解呪されないようだ。

「おじさん」陽の光が流れ込む窓のそばを通りながら、ハリーが呼びかけた。「ここはまだ地下でしょう?」「そうだよ」おじさんが答えた。「窓に魔法がかけてある。魔法ビル管理部が、毎日の天気を決めるんだ。」

Rowling, J.K.. Harry Potter and the Order of the Phoenix

ケース5ではディセンドを打ち消している。この魔法の分類は示されていない。しかし反対呪文と思われるアセンディオが映画ハリー・ポッターと炎のゴブレットで登場している。これはハリー・ポッターが唱えていることから少なくともspellかcharmであり、ディセンドもhexでもcurseでもなくspellかcharmであろう。

考察

魔法の分類項目の違いによる影響

以上のケースから、hexやcurseはこの呪文で打ち消すことができる可能性がある。また、タランタレグラなども打ち消すことができていることから、spellやcharmもこの呪文で打ち消すことができる。そのため、特に魔法の種類によって制限があるわけではなさそうである。

魔法の作用機構の違いによる影響

ケース4では、魔法省に施されている天候再現の魔法が一緒に解呪されることは考慮されていない。そのため、あらゆる魔法を打ち消すことができるわけではなさそうである。もしそうでないならば、とりあえず義務的にこの呪文を唱え続ければよいわけで、服従の呪文にてこずることもないはずである。また、オブリビエイトもこの呪文では解呪できないのであろう。

インセンディオで負った火傷はこの呪文では回復できないように、レパロで直したメガネがこの呪文を唱えたら再び崩壊しないように(もし直るのだとしたら、メガネにこれを破壊した状態に保つような魔法がかかっているか、あるいはどこかに記録されている、メガネが破壊されたという情報を打ち消すということになる)、魔法で生み出されたものが与えた影響は、この呪文の対象外である。そう考えると、この呪文は対象に影響を与え続けるタイプの魔法において効果を発揮し、唱える意義があると考えられる。

となると、アービスやサーペンソーティアなどで生み出された魔法生物がどうなるかというと、おそらく消滅させることができると思われる。

ではコロポータスで施錠された扉はアロホモラでなくともフィニート・インカンターテムで開錠できるのだろうか?もしコロポータスが魔法の力によって鍵を開かないようにする魔法であるのならばフィニートで開錠できるだろう。一方、鍵に作用して物理的に施錠操作を行う魔法であれば、フィニートでは開錠できず、アロホモラを唱えなければならないだろう。Wonderbook等の情報に則れば前者であり、コロポータスによる施錠はフィニート・インカンターテムで開錠できるのが筋である。

術者の力量による影響

解呪できるかどうかは術者の技量に依るという可能性もある。しかしそうであるならば、第一次魔法戦争や第二次魔法戦争のときに、例えばダンブルドアやキングズリー、あるいは魔法省内部でも服従の呪文を解除するために動いたり、ヴォルデモートが忠誠の術や忘却呪文を破るために使用したりすることができたはずなので、これが影響を与える可能性はあまりなさそうである。