無言呪文の難易度と効果について

前置き

無言呪文は、魔法を呪文を口にすることなく行使するという、非常に重要なスキルで、声に出して魔法を行使する必要が無いため不意打ちの効果が期待でき、また、どのような魔法を使用したか知られないというメリットがある。

一方、この技術には集中力と意思力 (concentration and mind power) が求められ、誰でも習得できるものではないとされる。

「 (…) 無言呪文の利点は何か?」 (…) 「こちらがどんな魔法をかけようとしているかについて、敵対者に何の警告も発しないことです」ハーマイオニーが答えた。 「それが、一瞬の先手を取るという利点になります」 「『基本呪文集・六学年用』と、一字一句違わぬ丸写しの答えだ。(…) しかし、概ね正解だ。左様。呪文を声高に唱えることなく魔法を使う段階に進んだ者は、呪文をかける際、驚きという要素の利点を得る。言うまでもなく、すべての魔法使いが使える術ではない。集中力と意思力の問題であり、こうした力は、諸君の何人かに (…) 欠如している」

Rowling, J.K.. Harry Potter and the Half-Blood Prince

ホグワーツでは、第6学年より闇の魔術に対する防衛術 (Defence Against the Dark Arts) の授業や呪文学 (Charms) の授業、変身術 (Transfiguration) の授業でも同様にこれが求められた。

いまや無言呪文は、「闇の魔術に対する防衛術」ばかりでなく、「呪文学」や「変身術」でも要求されていた。

Rowling, J.K.. Harry Potter and the Half-Blood Prince

しかし、原作の描写を見ると、ホグワーツを第3学年で退学したハグリッドが無言呪文を行使するシーンが見られたり、無言呪文でプロテゴやステューピファイを唱えられなかったハリー・ポッターが、レビコーパスは簡単に成功させたりするなど、説明されていない設定が存在すると思われる。

ここでは、無言呪文の難易度と効果について、原作小説で無言呪文による魔法と考えられるものから考察する。

映画版においては、映像作品としての制約や見栄えなどからあえて呪文を省いているケースがあると思われ、また、呪文の効果も改変されている場合もあるため、対象としない。

これは小説においても一部いえる。魔法の考案・設定のすり合わせの手間を減らしたり、都合よく話をすすめたりするために、曖昧な描写にしているケースが比較的多いと思われるからである。

原作における無言呪文への言及

そもそも呪文を唱えないため、確実にその呪文と判定できるケースが少ない。しかし、多くはインセンディオ、アロホモラなど、第1学年レベルの魔法である。高難易度の魔法が行使されたのは、アグアメンティ (可能性:フラー・デラクール)、インカーセラス (可能性:クィリナス・クィレル)、エクスペクト・パトローナム (確実:ニンファドーラ・トンクス) である。ベラトリックス・レストレンジがアバダ・ケダブラ (映画版:アヴァダ・ケダヴラ) を無言呪文で唱えた可能性があるが、文章の視点がそのときの対象とされた狐に近いところにあるため、ベラトリックスの声が描写されなかったか、あるいは表現の都合であった可能性がありはっきりとしない。

(…) 足音を忍ばせて土手を下っていく痩せた狐のほかは、生き物の気配もない。

そのとき、ポンと軽い音がして、フードをかぶったすらりとした姿が、忽然と川辺に現れた。狐はその場に凍りつき、この不思議な現象をじっと油断なく見つめた。そのフード姿は、しばらくの間方向を確かめている様子だったが、やがて軽やかにすばやい足取りで、草むらに長いマントを滑らせながら歩き出した。

二度目の、少し大きいポンという音とともに、またしてもフードをかぶった姿が現れた。

「お待ち!」

鋭い声に驚いて、それまで下草にぴたりと身を伏せていた狐は、隠れ場所から飛び出して土手を駆け上がった。緑の閃光が走った。キャンという鳴き声。狐は川辺に落ち、絶命していた。

Rowling, J.K.. Harry Potter and the Half-Blood Prince

死の呪文は、作中で多数使用されているが、ヴォルデモートですら呪文を唱えていることから無言呪文での使用は困難と思われる。なお、クラッブですら死の呪文を行使する場面があるため実は死の呪文の難易度はそこまで高くないのではないかという疑問がわいてくるが、このときのクラッブの死の呪文が果たして効果を発揮するものであったかどうかは不明である。

そのため、確実に無言呪文によるものと考えられるもので最も高度なものは、エクスペクト・パトローナムである。

トンクスが相変わらずにこりともせずに言った。ハリーが再び「マント」をかぶると、トンクスが杖を振った。杖先からとても大きな銀色の四足の生き物が現れ、暗闇を矢のように飛び去った。

Rowling, J.K.. Harry Potter and the Half-Blood Prince

魔法による無言呪文の難易度の違いについて

以上の原作の記述から、無言呪文の行使は魔法によって難易度が異なると考えられる。そしてそれは有言呪文で唱える際の難易度に従っているわけではなさそうである。当然ながら、有言で唱えられるからといって無言で唱えられるわけではない。

無言呪文を習い始める各授業はそれぞれの科目でO. W. L.を達成しそれを選択した学生でなければ受講できないことから単に習っていないというだけか、あるいはわざわざ無言呪文を必要としないというだけで、少なくとも第1学年で習う程度の魔法は大体の魔法使いが習得できるのではないかと思われる。

無言呪文による効果の低下について

無言呪文による魔法の行使では、声に出して唱える場合よりも効果が弱まる可能性がある。

「シレンシオ!」ハーマイオニーの呪文で男の声が消えた。フードの穴から口だけは動かし続けていたが、何の音も出てこなかった。 (…) しかし、ハーマイオニーが黙らせた死喰い人が、急に杖を一振りした。紫の炎のようなものが閃き、ハーマイオニーの胸の表面をまっすぐに横切った。ハーマイオニーは驚いたように「アッ」と小さく声を上げ、床にくずおれて動かなくなった。

(…)

ハーマイオニーはちょっと痛そうに、手を肋骨に当てた。ドロホフがハーマイオニーにかけた呪いは、声を出して呪文を唱えられなかったので効果が弱められはしたが、それでも、マダム・ポンフリーによれば、「当分おつき合いいただくには十分の損傷」だった。

Rowling, J.K.. Harry Potter and the Order of the Phoenix

杖無しで呪文を唱えることもできるようであるが、魔力に方向性を持たせて、正確に魔法を行使するためには杖を用いる方がはるかに良いとされている。そのため、熟練者でも長い間杖は使用されてきたのである。無言呪文でも正確な魔法、すなわちより効果を発揮すると期待される魔法を行使するためには、有言呪文による行使だと考えられる。